それは本当にスローモーションのようで。
何が起こったのか脳が理解するまで、少し時間がかかった。
○●タイムリミット
「
、身体しんどくない?」
「うん。大丈夫だよ。」
いつもの散歩の時間。
無理しない方がいいんじゃねぇの?って聞いたら、いつも通りに身体を動かさないとそれこそ調子悪くなるって返ってきた。
それに、
が今1番欲しているのは“いつも通りの今”
だから俺も“いつも通りに付き添い”
部活がオフシーズンで良かった。
じゃなかったらこんなに
の所におれないし。
オフでも練習はするけど、部活よりキッチリしてないからな。
「準備出来たよ。」
「んじゃ行こうぜぃ。」
「うん!」
俺はそっと
の手を引く。
は握り替えしてくれた。
少し曇ってたけど、晴れの散歩コース−中庭−に来た。
ただ、曇ってるからいつもほど人がいない。
たまに看護婦さんが通るくらい。
「ブンちゃん、あっち行ってみない?」
「あっち?」
「行ったことないでしょ?」
「通り狭いんじゃねぇ?通れる?」
「大丈夫だって!」
が行きたいと言ったところ。
それは病院の2棟と3棟の間の通路を抜けた向こう側。
そこには1本を木が生えてる。
行ったこと無いけど、
の病室からその場所が見えるから木があることを知ってた。
は2棟と3棟の壁の間をすり抜けていく。
早ぇし。
俺がまだ向こう側に行けてないうちに、
から感嘆の声が上がった。
そこには1本しか木はなかったけど。
特にどっしりしっかりとした木だったわけでもないけど。
葉と葉の間からこぼれ落ちてる光がキラキラと地面を照らしていた。
「綺麗〜・・・。」
は木を見上げながらそう呟いた。
「ね、ブンちゃん。」
「うん?」
「あの、ね・・・・。」
「どした?」
木を見上げていた視線を
に戻す。
は下を向いていて、表情はよく分からなかった。
「あのね、私−−−−−。」
それは本当にスローモーションのようで。
何が起こったのか脳が理解するまで、少し時間がかかった。
が タ オ レ タ
重力に従って、ストンと。
「
・・・・?」
返事は、ナイ。
「おいっ、
!?」
俺は
の身体を抱き起こす。
顔にかかっていた長い髪を払うと、血の気のない青白い顔。
苦しそうに、顔を歪めていた。
「
っ!!」
俺の呼び声に、
はうっすらと目を開けて俺を見た。
弱々しく、笑う。
そしてまた目を閉じた。
俺は
の身体を抱き上げて走ろうとする。
けど。
抱き上げることは出来ても歩くことなど、ましてや走ることは出来なかった。
立つだけでふらついてしまう。
これほど自分の身体の小ささと力の無さを悔やんだ事はない。
くそっ。真田やジャッカルならこれくらい平気なのに・・・!!
「今看護婦さん呼んでくるから・・・!」
そう呼びかけても、
から返事が返ってくることはなかった。
俺は病院の本館へ向かって走り出した。
を、一人残して。
途中振り返った時に見た
は木漏れ日を浴びてキラキラとしていた。
そのまま消えてしまいそうで、怖かった。
すごくすごく怖かった。
→
2006.11.19