の髪の毛は、黒くて癖毛なんて1つもなくてサラサラで腰まである。
髪の毛の長さは の病院生活の長さを物語っている。
の肌は白くて滑らかだ。
なにしろ、 はほとんど病院の外に出たことがないから。
あるとしても毎日の散歩コース。病院の中庭。屋上。
そこもやっぱり屋根とかがあって、直接日光を浴びることができるのはほんの一部でしかない。
だから はほとんど日光に当たっていない。もう何年も。
そんな当たり前の機会さえ、奪われ続けてるんだ。



今までも。今も。・・・・きっと、これからも。

















○●プロミスリング

















今日の の顔色はなかなか良かった。
毎日顔を合わせてる訳じゃないけどさ、 の体の具合はだいたい分かるようになってきた。
悪いときは動くのも辛いみたいで、ベッドから起き上がれない。
そう言うとき、 はいっつもベッドの中から手を伸ばしてくるんだ。
その手に、俺はそっと手を重ねる。


そんなことしか出来ない事に、毎回悔しさを感じるけど。
でも医者でもない俺は、 の苦痛を和らげること、出来ないんだよな・・・。








、何作ってんの?」
「ん、ちょっと待って。」
「さっきからそればっかじゃん。」
「あとちょっと〜。」



は最近、色とりどりの糸4本を編んでる。
手の動きが複雑で・・・何やってんのかさっぱり。




「ブンちゃん、そのリストバンドいつも付けてる?」
「ん?あぁ。リストバンドっていうよりもパワーリストだけどな。」
「パワーリスト?」
「ほら、持ってみ。」


俺は右腕からパワーリストをはずして に渡す。
コレ結構重いんだけど・・・ 骨折れないよな?
って流石にそこまで柔じゃないか。


「わっ、何コレ重・・っ!」
「だろぃ?」


はパワーリストを持った瞬間、ベッドの上に落とした。
俺は笑いながらひょいっと持ち上げ腕に戻す。


「ブンちゃんすごーい・・・。」
「鍛えてるからな。」
「よくそんなに毎日つけてるね。鉛入ってるなんて全然気付かなかった。」


はじっと俺の腕を眺める。
俺ちょっと得意気。
なんてな。



「んで、いつも付けてるけど、どーかした?」
「あ、そうそう!ブンちゃん腕出して。」
「どっち?」
「どっちでも。あーでも普通左かな。」



言われるまま俺は左腕を出した。
そこに、 がさっきから編んでいた糸を巻く。
あと少しかな、と が呟いた。


「はい、良いよー。」
「だからそれ何だよ。」
「もうちょっとだから!」


言わないと決めたら言わないし、動かないと決めたら動かない。
は結構強情な所があったりする。
まぁ、そこも可愛いんだけどさ・・・。






俺はすとんと椅子に座った。
俺の特等席。
そこから を眺める。
細くて長い指。伏し目がちな目。風に揺られるサラサラの髪。
の誕生日花に、確か『繊細』って言葉があった気がする。
ピッタリだ。









「よしっ出来た!」
「どれ?」
「ブンちゃんもう1回腕出して。」


俺が腕を出すと、さっきみたいに が糸を巻いた。
糸っていうより・・・いや糸なんだけどさ・・・。模様がある。





「コレって、ミサンガってやつ?」
「そうそう。プロミスリングとも言うでしょ。」
「スゲェなコレ。色んな模様入ってるし。どこで作り方覚えたんだ?」
「お母さんに本と糸買ってきてもらったの。暇だったし、どうせならプレゼント出来るものが良いと思って。」
「へぇ。ありがと!」
「どういたしましてー。ブンちゃんとお揃いなの。」


ホラ、と は病室に置いてある机の引き出しからミサンガを取り出した。
俺のと同じ模様で、色違い。
規則的に色が並んでて、 はすっごい器用だ。


の結んでやる。」
「うん!!」


俺は からミサンガを受け取ると、腕に巻いた。
細い細い腕だった。
マジで折れそうなくらい。





「コレに願掛けするんだよな?」
「そうだよー。」
「じゃあ俺は・・・。」
「あっ、言っちゃ駄目!人に言ったら意味ないんだよ!」
「マジで?うわ、危ねー・・・。」
「だから心の中で決めてね。」



俺の願い事。
テニスで全国3連覇?
違う違う。それは願い事じゃない。
必ず実現すること、実現させることだ。


だから、俺の願いは。







の体が良くなりますように。
が少しでも長く生きていられますように。









時間は進んでいる。








2006.10.22