都大会優勝を難なく決め、関東大会へ向けて練習をしていたある日の事。
俺たちは幸村君のお見舞いに行くことになった。
最近忙しくって行ってないしな。
まぁ、連絡は絶えず取ってたけど。
特に副部長様は、抜かりないからなぁ・・・。
ホント、いつでも気ぃ抜けないぜぃ。
















風吹き抜ける窓
















「幸村ぶちょーに会いに行くの久しぶりッスねー!」
「何かお見舞いの品を持って行った方が良いだろう。」
「ケーキ買って行こうぜぃ!もちジャッカルの奢りで!」
「何で俺だよ!?」
「お前達、病院では騒ぐなよ。」
「赤也達が静かじゃと、それこそ心配されるけぇ。」
「皆さん準備は出来ましたか?そろそろ行きますよ。」










幸村君が入院してるのは、比呂士の親父さんが勤めている病院だ。
それがまたでっかいんだな。
俺一人で行ったら絶対迷いそうだぜぃ・・・。    




バスを乗り継ぎ、ケーキ屋さん経由(ちなみにケーキは割り勘)総合病院行き。
受付で軽く手続きをし、俺たちは幸村君の病室へと向かう。
2階1番奥。205号室。一人部屋。

















「幸村ぶちょー!お見舞いに来たッスよ!!」
「赤也!!静かにせんか!」
「ふふ。良いよ、いつも通りで。」




幸村君は相変わらず・・・儚い?感じ。
体つきも前よりほっそりしちまって、痩せたよなぁって思う。




「顔色は良いですね。どうですか?調子は。」
「まずまずって所かな。早くみんなの所に戻りたいよ。」




一人部屋って事もあって、ワイワイガヤガヤ。
真田も結構くつろいでる感じだ。
最初はあーんなに静かにしろーって言ってたのに。





「幸村君、このケーキ食って良い?」
「ふふ。良いよ。」
「お前は遠慮って言葉知らねーのかよ。」
「良いじゃん!俺この苺タルト狙ってたの!」
「丸井太るぜよ。」
「その分運動してるからいーの。」


そう言って手に取った苺タルトを口に運ぶ。
カスタードクリームの甘さと、苺の甘酸っぱさが口の中いっぱいに広がった。
この瞬間が俺の幸せ。

















楽しい時間はあっという間に過ぎるってホントだよな。
面会時間終了なんてすぐに来た。
まぁ、部活帰りだったって事もあるけどさ。
また来るからなー!だの、早く試合しましょーね!だの、また連絡するだの、挨拶を交わしつつ俺たちは病室を出た。





病院の玄関を出て、壁に沿って歩いていく。
正門から出るよりも裏門から出た方がバス停に近いそうだ。



















サァッと風が吹いた。
その瞬間、俺は違う世界にいるような錯覚に陥った。
1番角にある部屋から窓は開け放たれていて、薄いピンク色のカーテンがパタパタとなびいている。
そのカーテンからチラッと見えた横顔。
透き通るような白い肌に、黒く長い髪の毛。
サァッと風が吹く度、その髪の毛はサラサラと揺れていた。
カーテンから見えたのは一瞬だけ。
なのに、俺には凄く印象に残った。





そこだけ、世界が違うように見えた。
















「丸井先パーイ?何やってんスかー?」
「置いていくぞ!」
「あっ、あぁ。今行く!」





いつの間にか俺は足を止めていた。
他の奴らは先に行っちまっていて、俺はそこまで駆けていく。


「何かあったんか?」
「いや、何でもねぇ。」



何となく、言いたくなかった。
錯覚かとも思ったけど、しっかり見えていた彼女の横顔。
何となく、秘密にしたかった。








会ってみたいと、思った。





2006.9.17