嫌い嫌いも好きのうち。

でもやっぱり嫌いなものは嫌いなの。



















○●バースディ・フラワー



















「・・・・・。」
〜・・・・。」



只今私、最大の敵と戦っています。



「・・・・・あーもう無理!やっぱり駄目!」
「駄目じゃねぇだろぃ。一口じゃんこんなの。」
「細かく食べたら三口になるもん。」
「どんだけ細かく食べる気だよ。」






今日の病院食。
その中にあるサラダ。その中の生タマネギ。
私の最大の敵。
格闘中・・・・・・・・・無理。



「そんなにタマネギ嫌い?」
「タマネギは嫌いじゃないんだよ。煮込んだりしたら美味しいし。でも生は無理!」
「何で?」
「何でも。」
「理由になってないって。」



いつもは生タマネギが出てきても残してる。
内緒だけどね。
看護婦さんに好き嫌いしちゃ駄目よって言われるけど、別にタマネギは嫌いじゃない。
生だったら食べられないだけ。
別にアレルギーとかじゃないんだけど。
生タマネギは、どーしても無理。



「ブンちゃんだって嫌いなものあるでしょー。」
「俺何でも好きだし。」
「それおかしいよ!?」
「何でだよ!嫌いなものあるよりは良いだろぃ!」



今日もいつものように残そうと思ってた。
そしたらブンちゃんが来たんだ。
何でも部活が早く終わったからって。
来てくれたのは嬉しいけど・・・・タイミング悪すぎ。
私が残そうとしたら、さっきからこのやり取り。




「ちゃんと食べなきゃ駄目だろぃ。栄養とか考えて作ってあんのに。」
「こんな不味い病院食に正しい栄養があるとは思えません。」
「屁理屈言わない。」
「ブンちゃんは食べたことないから分からないんだよ!」



不味い物ほど栄養があるとか、そういう問題じゃない。
固かったり冷めてたり、とにかく美味しくないんだ。
そりゃ何十人もいる患者にご飯作ってたら冷めるだろうけど・・・。
ってそうじゃない。
今は生タマネギをどうするかが問題なんだから。








「今日まだ散歩行ってないんだろぃ?早く食っちまって外行こうぜ。」
「う〜・・・・。」



ブンちゃんはベッドの横にある椅子に座って、足をぶらつかせている。
きっと暇なんだろな。
私も早く散歩行きたいけど・・・。








私はじっとサラダを見た。寧ろ睨み付けた。
ご飯は残りこのサラダだけ。
これを食べたら外へ行ける。
頑張れ私。
なんて自分を励ましてみる。




お箸で持って、目を瞑って、そのまま一気に口の中へ。
味が分からないようにあまり噛まずに飲み込む。







「お〜やっと食べたか〜。」
「あと口!ブンちゃんあと口何か無い!?」
「ほら飴玉。」
「ありがとっ」





生タマネギの味が口の中で広がる前に、ブンちゃんからもらった飴を口の中へ入れる。
赤い、大きな飴。
甘い苺味だった。






「さてっと。んじゃあ外行く?」
「うん!!」
























散歩コースは、中庭をぐるっと回って、ベンチで休憩して、またぐるっと回って帰ってくる。
気温が高くて暖かい日は中庭。
寒い日は屋上へ行ったりする。
今日は幸いにも暖かく晴れていた。





「病院って結構花多いなぁ。」
「綺麗だからねぇ。あ、そういえばブンちゃんの誕生日って4月20日だったよね。」
「あぁ、うん。」
「4月20日はね、えっとー・・・・」




頭の中で本で読んだ記憶を手繰り寄せる。
元々花は好きだったし、花占いとか花言葉とか誕生日花とかにも興味があった。
この間ブンちゃんと話をしたときに誕生日を聞いたから、誕生日花と花言葉を調べてみた。




「確かね、ブンちゃんの誕生日花は『梨の花』で、花言葉は『和やかな愛情』『恋心』だったよ。」
「なし?って、あの食べる梨?」
「そうそう。果物の花って所がブンちゃんらしいよね。」
「・・・喜んで良いのか駄目なのか分かんねぇんだけど。」
「喜ぶ事にしておいて!」



ちょっと複雑な顔をしたブンちゃんを見て小さく笑う。
でもホント、何でも美味しそうに食べるブンちゃん見てたら梨の花が誕生日花ってピッタリだなぁって思うんだ。






「ブンちゃんの花言葉だけど、何か優しい感じがするよね。」
「和やかな愛情とか?」
「そう。恋心とかね。今好きな人とかいるの?」
「秘密ー。」
「えー、良いじゃない教えてくれても!」
「またいつかなー。」



そう言って、ブンちゃんはプクッとガムを膨らませた。
ブンちゃん、好きな人いるみたい。






「じゃあさ、 の誕生日花は?5月1日だっけ?」
「うん。私の花は『スズラン』なの。花言葉は『幸福が訪れる』とか『幸福のシンボル』。『 愛』、『繊細』とかがあるよ。」
「へぇ。何か『幸せ』メインの花って感じだな。」
「スズランを受け取った人は幸福になれるって言われてるんだよ。男性が女性にスズランを渡すのは告白を意味するんだって。」
「ふーん・・・・。」



スズランねぇ・・・。って、ブンちゃんは独り言のように呟いていた。




ブンちゃんがスズランの花プレゼントしてくれたらいいのに。
そんな、遠回しな淡い願い。







私にとっての『幸福が訪れる』は、ブンちゃんが来てくれた事なんだよ。














2006.10.8