いつもここにいたのに、気付いたらいなくなっていて


でも、素直になれない自分











白い月(後編)












潤慶が来た次の日の朝。
俺がリビングに行くと潤慶は既に起きてテレビを見ていた。
珍しい。



「おはよう。」
「あ、ヨンサおはよ〜!早いねー。」
「潤慶の方が早いでしょ。」



いつもは潤慶の方が起きるの遅い。
俺が先に起きて、朝ご飯前に起こしに行く事がほとんど。
だから潤慶が先に起きてるなんてちょっと驚いた。
自分が寝坊したんじゃないかと思ったけど、大丈夫。
まだ寝坊したなんて言う時間じゃない。


ふと、潤慶がもたれていた鞄に目がいく。
鞄は来たとき同様にふくれ上がっていた。





「潤慶、今日帰るの?」
「うん。あんまり時間ないんだ。」
「だったらなんで無理して来るの。」
「だってヨンサに会いたかったんだもん。」
「この前試合で会ったばっかりでしょ。」



雪の中のソウル戦。
ちょうど1週間前の話。







朝食を食べているとき、何度か潤慶は目をこすっていた。
俺が起きてきて潤慶を見たときもボーッとしていた。



「潤慶、ちゃんと寝た?」
「う〜ん。あんまり寝られなかったかなぁ。」
「今日何時に起きたの?」
「分かんない。時計見てない。」



また一つ。欠伸。



「ちゃんと寝なきゃ風邪悪化するでしょ。」
「大丈夫。サッカーしたら治る!」
「治るわけないって・・・。」



このままいくと本当に風邪お構いなしにサッカーしそうだ。
そう思って、俺は家にあった総合漢方薬を取りに行く。



「はい、薬。」
「えー、コレ嫌〜い。」
「薬に好きも嫌いもないでしょ。」



えー、とまだ不満を言う潤慶をよそに俺は箸を進めていく。
薬は錠剤だから、味はしないと思うんだけど・・・。












朝食を食べ終わり、少しの時間。
俺は昨日の読書の続き。
潤慶は・・・ソファに寝そべっている。


「潤慶、何時に帰るの?」
「えーっとねぇ、夕方には出なきゃ駄目かな。」
「そう。夕方から用事あるからから空港まで見送り出来ないけど、良いよね。」
「・・・ヤダ。」
「ワガママ言わないでよ。」



こういうとき、ちょっと拗ねるのはいつもの潤慶だ。
でも、どこか違う。何となく違う。
どこがって言われても説明出来ないけど、やっぱり違う気がした。

いつから?昨日から?



「見送りは次ね。」
「次なんて・・・・」

潤慶はそこまで言いかけて言葉を切った。
いつもならそのまま流すけど、今日は気になって本から顔を上げる。
潤慶はソファに顔を埋めていた。


「窒息死するよ。」
「平気。」


そして俺は本に顔を戻した。











「それじゃあまたね。」
「うん。また来る!」
「次は帰ってくるときはちゃんと連絡してよ。」
「多分ね〜。」
「多分じゃない。」


アハハと笑う潤慶を見ても、何故か違和感を感じるのは何故だろう。
気になったけど、それを潤慶には、結局言わなかった。








「ただいま〜。」
「おかえり。」

入れ替わり立ち替わりで母さんが帰ってきた。

「あら、潤慶君来てたの?」
「うん。昨日から。」

台所に食器が二人分出てたとか、そういう所を見れば誰かが来ていた事は分かるだろうけど。
それが潤慶だと分かるところが流石。


「そういえば潤慶君、サッカーでスペインに行くんでしょ?」
「え・・・?」
「確か明日の朝出発じゃなかったかしら。忙しいのによくウチに来られたわねぇ。」




フッと、潤慶の言葉を思い出した。

「・・・・ねぇ、ヨンサ。」

「僕がいなくなったら寂しい?」





「・・・っ何で・・・!」

考えるよりも先に走り出していた。
後ろで母さんが「出かけるの?」と聞いてきたけど、それに返事する余裕もなかった。
・・・・何で俺こんなに必死になってるんだろう。

昨日から感じてた違和感はこれか。

やっと腑に落ちた。ホント、嫌なタイミング。



潤慶が家を出てから何分経っているか分からない。
今急いで空港に行ったって間に合わない。
そう頭の中で分かってるのに、俺は空港へ走り続けた。

「次なんて・・・いつあるか分からないよ。」




人混みの中、従兄弟の姿を探す。
何で俺こんなに必死になってるんだろう。

家を出るときに浮かんだ疑問の答えはまだ出ないまま。



搭乗口の前に、フッと見えた潤慶の姿。
「・・・っ潤慶!!」
「・・・・ヨンサ。」


潤慶の顔に驚きと戸惑いの表情が広がる。
俺は潤慶の前までいくと、膝に手を付き息を整えた。

「・・・なん・・何、で・・・スペイン行き・・・・黙ってたの。」
「・・・・ヨンサ、怒ってる?」
「当たり前でしょ!!何で、そんな大事な事・・・!」



顔を上げたとき、潤慶は笑っていた。



「ヨンサの気持ち、知りたかったから。」
「・・・っ」
「僕がいなくなるってヨンサが自覚した時、ヨンサどんな行動に出てくれるのかなって思ったから。」
「・・・・」
「まさか空港まで走ってきてくれるとは思わなかったけど。」


もともと少し潤慶の方が身長高いのと、俺が膝に手を付いて前屈みになってるのとで、今は潤慶に見下ろされている状態だ。
息が上がっている俺は潤慶にまともに返事を返す事さえできない。



「ヨンサ、僕がすぐに会えないような遠いところまで行くって分かったとき、どう思った?」
「それは・・・。」

どう思ったか、なんて・・・。
言葉に詰まって下を向いたとき、ふわっと背中に暖かみのある感触。
それが潤慶の腕だと理解するのにそう時間はかからなかった。


「ヨンサ、好きだよ。」
「何でそんな事、今言うの・・・。」
「ヨンサは僕の事嫌い?」
「そうじゃない・・・けど・・・。」
「良かった。僕ね、ずっとヨンサからちゃんとした感情が欲しかったんだ。」
「・・・・。」
「とっておきの餞別だね。」


するりと潤慶の腕が解かれる。
搭乗の時間。

「潤慶。」
「何?ヨンサ。」
「次帰ってくるときはちゃんと連絡してよ。」
「多分ね〜。」
「多分じゃない。」


ニコ、と手を振り潤慶は搭乗口へ入っていった。
韓国行き。アナウンスが流れる。





外へ出たときには真っ暗になっていた。
冬の日は短い。
星はほとんど見えず、やけに輝いてるのは白い月。


潤慶は月を見ただろうか。
俺が見てる同じ月を、見ただろか。

なんて、らしくないこと思った。






白い月前編から約1ヶ月も経ってしまいました・・・。
遅くなってすみません!
なんかもう後半訳分からなくなってきました。
というかこれはCPですか?CPに分類しちゃって良いんですか?
書き方分かんない。もっと修行しなければ・・・。

2006.10.29