校舎の門を通ってグランドへ戻るよりも、もっと近い道がある。
じゃんけんで負け買い出しに行ってきた藤代は、その近道を通る為に壁の段差に足をかけた。
よっと、声を出して上った壁の先には人一人通れるぐらいの穴が開いているフェンス。
買ったビニール袋を先に穴へ通し、その後自分も通る。
あと少し、あと少しで通り抜けられるという時に。




ビリッ



「・・・・っあ。」
嫌な音がした。
後ろを振り返ると、制服の裾が10pほど破れているのが見えた。
未だ糸はフェンスの先に引っかかっている。
このまま下に飛び降りると、間違いなく制服は素晴らしい変身を遂げるだろう。



「・・・っ、あっれ・・・この・・・。」
フェンスから糸をほどこうと試みるが、絡まっていて中々外れない。
引っ張ってみても糸が伸びるだけ。
上に引っ張ったり下に引っ張ったり、その間にも糸はほどけていく。


「・・・・と、っれた!」
とれたと言うよりも、引きちぎったと言う方が正しいか。
フェンスの先には、数pの白色の糸が風に吹かれている。
制服は、最初破れたときよりも破れ目が大きくなっていた。


「あーあ。制服ー・・・。」
右手にスーパーの袋を持ち、空いた左手で制服の裾を持ち上げる。
パタパタと揺れる制服の端からは、白の糸が風に吹かれていた。
どうするか、暫くの間制服を眺めていた藤代は家庭的な先輩の顔を思い出し、うんそうしよーと呟いた後寮へ向かって駆けだした。













夏の色












「買い出し戻りましたー。」
「遅っせぇよ。早くよこせ。」
「あー、人が折角買ってきたのにその態度は何スかー。」
「じゃんけん負けたのはてめぇだろうが。」


相変わらず口が悪い。
ガラが悪いだとか、口答えできないだとか言う2軍や3軍もいる。強ち間違いではないが。
けれど、頼まれたことを断れない性格だと言うことも、もの凄く努力家だということも、藤代は知っている。
いや、1軍メンバーは知っていると言ったところか。



「藤代早くー。俺もう溶けるー。」
「あ、はーい。根岸先パイってスーパーカップでしたっけ?」
「うん、そぉー。」


間延びした返事をする先輩に、少し、まだ少しと言い切れる柔らかさになったアイスを渡す。
うわ、なんか柔らかくなってる、という声は聞こえなかったことにしよう。





「で、えーっと。キャプテンは小豆アイスで・・・あ、あったあった。高田先パイはガリガリ君?」
「あぁ、ありがとう。」
「サンキュー。」
何でキャプテンは小豆とか抹茶ばっかりなんだろーとか、高田先パイはいっつもガリガリ君だよなーとか思って。
ちなみにガリガリ君は最後の一本だった。良かった。




「中西先パーイ、ハーゲンダッツー。」
「あ、こっちほって。」
さりげなく扇風機を独り占めしている中西に、アイスを投げてよこす。
コレも少し柔らかくなっていた。
キャッチした中西から、あー!と悲鳴が返ってくる。


「藤代ー!コレバニラじゃん!」
「え、バニラって言いませんでしたっけ?」
「バニラ以外って言ったんだよ!ちょっともー俺バニラは嫌いだってー。」
買い直して来ーい、そんなの無理ッスよーと言う会話をしているうちに、笠井はスーパーの袋の中へ手を入れ好みのアイスを選んでいく。
自分の分と取った後、横に座っていた先輩−大森−の分も取り出し元の位置へ戻っていった。





俺って律儀ー、なんて言いながら残りのアイスを配っていく藤代。
わざと最後にした三上にアイスを渡し、何で俺が最後なんだとゲンコツを頂いた後に、袋を回してもらえば良かったと気がついた。










「あー、暑い暑い暑いぃーーっ!!」
自分用にと買ったソーダーアイスを頬張りながら、少しでも冷たいフローリングへと座り込む。


「煩い騒ぐな藤代ー。俺もうマジで溶けそうだから!」
食べ終わったのか、スプーンを加えながら根岸が返す。
根岸はフローリングの上に寝そべっていた。
「暑い暑い言うから余計に暑くなるんだろ。」
1本しかないうちわは近藤が持っているため、辰巳は手元にあったサッカーの雑誌をうちわ代わりにして仰いでいた。
バサバサと、うちわとは異なる少し重い音が響き渡る。




「・・・じゃあ、寒い寒い寒いー!」
「寒いって言って涼しくなったらクーラーいらないって。地球温暖化にもならないって。」
「じゃあその扇風機貸しやがれボケ中西。」
「やーだ。」



それにしても、この暑さの中で渋沢と笠井が涼しい顔をしているのは何故だろう。



「ホント、こんな暑い日にクーラー壊れてるってないよなー。」
高田の言葉に、一同深く頷いた。



「でもま、部活が休みなだけマシじゃない?こんな炎天下の中部活してクーラーなしとか死ぬ。」
「大森先輩の部屋って扇風機ありませんでしたっけ?」
「それが今中西が占領してるコレ。」
座っているだけでは物足りなくなったのか、根岸と同じく藤代も床に寝そべった。



「なーんでこんなに夏暑いんスかねー。」
「夏に聞いてみなよ。」
「大森先パイ聞いてみてくださいよー。」
「太陽有給休暇取れー。」
「あ、でも雨降っても困るッス!サッカー出来なくなる!」
「お前ってホントサッカーばっかだよなー。」
パタパタとうちわで仰ぎながら近藤が言った。そして、俺らも藤代のこと言えないけど、と付け足して。





















「あれ、誠二その制服どうしたの?」
「ん?あぁコレ?さっき帰ってくるときに破いた。」
「いや破いてるのは分かってるから。一目瞭然だから。ていうか、どういう帰り方したら破れる訳?」
「んー、ちょっと近道してみた。」
「そういう所見つけるの、相変わらず得意だね。」
ため息をついた笠井の横で、大森が笠井の代弁をした。
「というわけで、キャプテン縫ってくださーい!」
はい、とさも縫ってもらうのが当然のように渋沢に制服を差し出す。



俺に選択肢はなしか?と言う苦笑した渋沢の質問に、もちろんッス!と答えられる2年は藤代ぐらいだろう。
そしてなんだかんだと言いつつも明日までに仕上げてしまう渋沢も渋沢だ。
きっと洗濯してアイロンかけて返してくれるに違いない。





そんなやりとりを見ていた三上は、毎度の事ながら渋沢が母に見えたという。







藤代の制服破いた所を書きたかっただけの話。
1軍全員言葉喋ってるハズ・・・あぁ!!間宮喋ってねぇ!!
(でも書き直す気なし)

2006.8.1